文語訳舊約聖書(1953年版)(振り仮名付き)

章: 1  2  3

ヨエル書

  第1章

1:1 ペトエルの子こヨエルに臨のぞめるヱホバの言ことば

1:2 老おいたる人ひとよ汝なんぢら是これを聽きけ すべて此地このちに住すむ者もの汝なんぢら耳みみを傾かたむけよ 汝なんぢらの世よあるは汝なんぢらの先祖せんぞの世よにも是かくのごとき事ことありしや

1:3 汝なんぢら之これを子こに語かたり子こはまた之これをその子こに語かたりその子こ之これを後のちの代よに語かたりつたへよ

1:4 噬かみくらふ蝗虫おほねむしの遺のこせる者ものは群むれゐる蝗虫おほねむしのくらふ所ところとなりその遺のこせる者ものはなめつくすおほねむしのくらふ所ところとなりその遺のこせる者ものは喫くひほろぼす蝗虫おほねむしの食くらふ所ところとなれり

1:5 醉ゑひる者ものよ汝なんぢら目めを醒さまして泣なけ すべて酒さけをのむ者ものよ哭なげきさけべ あたらしき酒さけなんぢらの口くちに絶たえたればなり

1:6 そはことなる民たみわが國くにに攻せめよすればなり その勢いきほひ強つよくその數かずはかられずその齒はは獅子ししの齒はのごとくその牙きばは牝め獅子じしの牙きばのごとし

1:7 彼等かれらわが葡萄ぶだうの樹きを荒あらしわが無花果いちじくの樹きを折をりその皮かはをはぎはだかにして之これを棄すつ その枝えだ白しろくなれり

1:8 汝なんぢら哀哭なげきかなしめ 貞女ていぢよその若わかかりしときの夫をつとのゆゑに麻布あさぬのを腰こしにまとひて哀哭なげきかなしむがごとくせよ

1:9 素祭そさい灌祭くわんさいともにヱホバの家いへに絶たえヱホバに事つかふる祭司さいし等ら哀傷かなしみをなす

1:10 田はたは荒あれ地ちは哀傷かなしむ 是これ穀物こくもつ荒あれはて新あたらしき酒さけつき油あぶらたえんとすればなり

1:11 こむぎ大おほむぎの故ゆゑをもて農夫のうふ羞はぢよ 葡萄ぶだうをつくり哭なけよ 田はたの禾稼みのりうせはてたればなり

1:12 葡萄樹ぶだうのきは枯かれ無花果いちじくの樹きは萎しほれ石榴ざくろ椰子やし林檎りんごおよび野のの諸すべての樹きは凋しぼみたり 是ここをもて世よの人ひとの喜樂たのしみかれうせぬ

1:13 祭司さいしよ汝なんぢら麻布あさぬのを腰こしにまとひてなきかなしめ 祭壇さいだんに事つかふる者ものよ汝なんぢらなきさけべ 神かみに事つかふる者ものよなんぢら來きたり麻布あさぬのをまとひて夜よるをすごせ 其そは素祭そさいも灌祭くわんさいも汝なんぢらの神かみの家いへに入いることあらざればなり

1:14 汝なんぢら斷食だんじきを定さだめ集會しふくわいを設まうけ長老としより等らを集あつめ國くにの居民きよみんをことごとく汝なんぢらの神かみヱホバの家いへに集あつめヱホバにむかひて號呼よばはれよ

1:15 ああその日ひは禍わざはひなるかな ヱホバの日ひ近ちかづく暴風はやちのごとくに全能者ぜんのうしやより來きたらん

1:16 我われらがまのあたりに食物しょくもつ絶たええしにあらずや 我われらの神かみの家いへに歡喜よろこびと快樂たのしみ絶たえしにあらずや

1:17 種たねは土つちの下したに朽くち倉くらは壞やぶれ廩よねぐらは?くづる そは穀物こくもつほろぼされたればなり

1:18 いかに畜獸けものは哀かなしみ鳴なくや 牛うしの群むれは亂みだれ迷まよふ 草くさなければなり 羊ひつじの群むれもまた死喪しにうせん

1:19 ヱホバよ我われなんぢに向むかひて呼よばはらん 荒野あれのの諸すべての草くさは火ひにて燒やけ野のの諸すべての樹きは火?ほのほにてやけつくればなり

1:20 野のの獸けものもまた汝なんぢにむかひて呼よばはらん 其そは水みづの流ながれ涸かれはて荒野あれのの草くさ火ひにてやけつくればなり

  第2章

2:1 汝なんぢらシオンにて喇叭らつぱを吹ふけ 我わが聖山きよきやまにて音おとたかく之これを吹ふき鳴ならせ 國くにの民たみみな慄ふるひわななかん そはヱホバの日ひきたらんとすればなり すでに近ちかづけり

2:2 この日ひは��くろくをぐらき日ひ雲くもむらがるまぐらき日ひにしてしののめの山々やまやまにたなびくが如ごとし 數かずおほく勢いきほひさかんなる民たみむれいたらん かかる者ものはいにしへよりありしことなくのちの代々よよの年としにもあることなかるべし

2:3 火ひ彼かれらの前まへを焚やき火?ほのほかれらの後うしろにもゆ その過すぎさる前まへは地ちエデンのごとくその過すぎしのちは荒あれはてたる野のの如ごとし 此これをのがれうるもの一ひとつとしてあることなし

2:4 彼かれらの状かたちは馬むまのかたちのごとく其その馳はせありくことは軍馬いくさむまのごとし

2:5 その山やまの嶺いただきにとびをどる音おとは車くるまの轟聲とどろくがごとし また火ひの稗株いなかぶちをやくおとの如ごとくしてその樣さま強つよき民たみの行伍そなへをたてて戰陣いくさにのぞむに似にたり

2:6 そのむかふところ諸民しよみん戰慄をののきその面かほみな色いろを失うしなふ

2:7 彼かれらは勇士ゆうしの如ごとくに趨はせあるき軍人いくさびとのごとくに石垣いしがきに攀よぢのぼる 彼かれら各々おのおのおのが道みちを進すすみゆきてその列なみを亂みださず

2:8 彼かれら互たがひに推おしあはず各々おのおのその道みちにしたがひて進すすみ行ゆく 彼かれらは刄やいばに觸ふるるとも身みを害そこなはず

2:9 彼かれらは邑まちをかけめぐり石垣いしがきの上うへに奔はしり家いへに攀登よぢのぼり盗賊ぬすびとのごとくに窓まどより入いる

2:10 そのむかふところ地ちゆるぎ天てん震ふるひ日ひも月つきも暗くらくなり星ほしその光明ひかりを失うしなふ

2:11 ヱホバその軍勢ぐんぜいの前まへにて聲こゑをあげたまふ 其その軍旅ぐんりよはなはだ大おほいなればなり 其その言ことばを爲なしとぐる者ものは強つよし ヱホバの日ひは大おほいにして甚はなはだ畏おそるべきが故ゆゑに誰たれかこれに耐たふることを得えんや

2:12 然されどヱホバ言いひたまふ 今いまにても汝なんぢら斷食だんじきと哭泣なげきと悲哀かなしみとをなし心こころをつくして我われに歸かへれ

2:13 汝なんぢら衣ころもを裂さかずして心こころを裂さき汝等なんぢらの神かみヱホバに歸かへるべし 彼かれは恩惠めぐみあり憐憫あはれみありかつ怒いかることゆるく愛憐いつくしみ大おほいにして災害わざはひをなすを悔くいたまふなり

2:14 誰たれか彼かれのあるひは立たち歸かへり悔くいて祝福めぐみをその後あとにとめのこし汝なんぢらをして素祭そさいと灌祭くわんさいとをなんぢらの神かみヱホバにささげしめたまはじと知しらんや

2:15 汝なんぢらシオンにて喇叭らつぱを吹ふきならし斷食だんじきを定さだめ公會こうくわいをよびつどへ

2:16 民たみを集あつめその會くわいを潔きよくし老おいたる人ひとをあつめ孩童わらはべと乳哺子ちのみごを集あつめ新郎にひむこをその室ねやより呼よびいだし新婦にいよめをその密室おくねやより呼よびいだせ

2:17 而しかしてヱホバに事つかふる祭司さいし等らは廊ほそどのと祭壇さいだんの間あひだにて泣なきて言いへ ヱホバよ汝なんぢの民たみを赦ゆるしたまへ 汝なんぢの?業さんげふを恥辱はぢしめらるるに任まかせ之これを異邦人ことくにびとに治をさめさする勿なかれ 何なんぞ異邦人ことくにびとをして彼かれらの神かみは何處いづくにあると言いはしむべけんや

2:18 然しかせばヱホバ己おのれの地ちにために嫉妬ねたみを起おこしその民たみを憐あはれみたまはん

2:19 ヱホバ應こたへてその民たみに言いひたまはん 視みよ我われ穀物こくもつとあたらしき酒さけと油あぶらを汝なんぢにおくる 汝なんぢら之これに飽あかん 我われなんぢらをして重かさねて異邦人ことくにびとの中うちに恥辱はぢを蒙かうむらしめじ

2:20 我われ北きたよりきたる軍ぐんを遠とほく汝なんぢらより離はなれしめうるほひなき荒あれ地ちに逐おひやらん 其その前軍ぜんぐんを東ひがしの海うみにその後軍こうぐんを西にしの海うみに入いれん その臭味くさきにほひ立たちその惡臭あしきにほひ騰のぼらん 是これ大おほいなる事ことを爲なしたるに因よる

2:21 地ちよ懼おそるる勿なかれ 喜よろこび樂たのしめ ヱホバ大おほいなる事ことを行おこなひたまふなり

2:22 野のの獸けものよ懼おそるる勿なかれ あれ野のの牧草まきくさはもえいで樹きは果みを結むすび無花果樹いちじく葡萄樹ぶだうのきはその力ちからをめざすなり

2:23 シオンの子等こらよ 汝なんぢらの神かみヱホバによりて樂たのしめ喜よろこべ ヱホバは秋あきの雨あめを適當ほどよくなんぢらに賜たまひまた前さきのごとく秋あきの雨あめと春はるの雨あめとを汝なんぢらの上うへに降ふらせたまふ

2:24 打塲うちばには穀物こくもつ盈みち甕かめにはあたらしき酒さけと油あぶら溢あふれん

2:25 我わが汝なんぢらに遣つかはしし大軍たいぐんすなはち群むれゐる蝗いなごなめつくす蝗いなご喫すひほろぼす蝗いなご噬かみくらふ蝗いなごの觸くひあらせる年としをわれ汝なんぢらに賠つくのはん

2:26 汝なんぢらは食くらひ食くらひて飽あき よのつねならずなんぢらを待あしらひたまひし汝なんぢらの神かみヱホバの名なをほめ頌たたへん 我民わがたみはとこしへに辱はづかしめらるることなかるべし

2:27 かくて汝なんぢらはイスラエルの中うちに我わが居をるを知しり汝なんぢらの神かみヱホバは我われのみにて外ほかに無なきことを知しらん 我民わがたみは永遠とこしへに辱はづかしめらるることなかるべし

2:28 その後のちわれ吾靈わがみたまを一切すべての人ひとに注そそがん 汝なんぢらの男子むすこ女子むすめは預言よげんせん 汝なんぢらの老おいたる人ひとは夢ゆめを見み汝なんぢらの少わかき人ひとは異象まぼろしを見みん

2:29 その日ひ我われまたわが靈みたまを僕しもべ婢しもめに注そそがん

2:30 また天てんと地ちに徴證しるしを顯あらはさん 即すなはち血ちあり火ひあり煙けぶりの柱はしらあるべし

2:31 ヱホバの大おほいなる畏おそるべき日ひの來きたらん前さきに日ひは暗くらく月つきは血ちに變かはらん

2:32 凡すべてヱホバの名なを?よぶ者ものは救すくはるべし そはヱホバの宣のたまひし如ごとくシオンの山やまとヱルサレムとに救すくはれし者ものあるべければなり 其その遺のこれる者ものの中うちにヱホバの召めし給たまへるものあらん

  第3章

3:1 觀みよ我われユダとヱルサレムの俘囚人とらはれびとを歸かへさん その日ひその時とき

3:2 萬國ばんこくの民たみを集あつめ之これを携たづさへてヨシヤパテの谷たににくだりかしこにて我民わがたみ我われゆづりの?さんなるイスラエルのために彼かれらをさばかん 彼かれらこれを國々くにぐにに散ちらしてその地ちを分わかち取とりたればなり

3:3 彼かれらは籤くじをひきて我民わがたみを取とり童子わらべを娼妓あそびめに換かへ童女めのわらはを賣うり酒さけに換かへて飮のめり

3:4 ツロ、シドンよベリシテのすべての國くによ 汝なんぢら我われと何なにのかかはりあらんや 汝なんぢら我わがなししことに返かへしをなさんとするや 若もしし我われに返報むくいをなさんとならば我われ忽たちまち迅速すみやかに汝なんぢらがなししことをもてその首かうべに歸かへらしめん

3:5 是こは汝なんぢらは我われの金銀きんぎんを取とり我われのしたふべき寶たからを汝なんぢらの宮みやにたづさへゆき

3:6 またユダの人ひととヱルサレムの人ひとをギリシヤ人びとに賣うりてその本國ほんごくより遠とほく離はならせたればなり

3:7 視みよ我われかられを起おこして汝なんぢらが賣うりたる處ところより出いだし汝なんぢらがなししことをもてその首かうべにかへらしめん

3:8 我われはなんぢらの男子むすこ女子むすめをユダの人ひとの手てに賣うり彼かれらは之これを遠とほき民たみなるシバ人びとに賣うらん ヱホバこれを言いふ

3:9 もろもろの國くにに宣のべつたへよ 戰爭たたかひの準備そなへを爲なし勇士ゆうしをはげまし軍人いくさびとをことごとくちかより來きたらしめよ

3:10 汝等なんぢらの鋤すきを劍つるぎに打うちかへ汝なんぢらの鎌かまを鎗やりに打うちかへよ 弱よわき者ものも我われは強つよしと言いへ

3:11 四周まはりの國々くにぐにの民たみよ汝なんぢら急いそぎ上のぼりて集あつまれ ヱホバよ汝なんぢの勇士ゆうしをかしこに降くだしたまへ

3:12 國々くにぐにの民たみよ起たちて上のぼりヨシヤパテの谷たにに至いたれ 彼處かしこに我われ座ざをしめて四周まはりの國々くにぐにの民たみをことごとく鞫さばかん

3:13 鎌かまをいれよ 穀物こくもつは熟じゆくせり 來きたり踏ふめよ酒?さかぶねは盈みち甕かめは溢あふる 彼かれらの惡あく大おほいなればなりと

3:14 かまびすしきかな無數むすうの民たみ審判さばきの谷たににありてかまびすし ヱホバの日ひ審判さばきの谷たにに近ちかづくが故ゆゑなり

3:15 日ひも月つきも暗くらくなり星ほしその光明ひかりを失うしなふ

3:16 ヱホバ、シオンよりよびとどろかしヱルサレムより聲こゑをはなち天地てんちを震ふるひうごかしたまふ 然されどヱホバはその民たみの避所さけどころイスラエルの子孫しそんの城しろとなりたまはん

3:17 かくて汝なんぢら我われはヱホバ汝等なんぢらの神かみにして我わが聖山きよきやまシオンに住すむことをしるべし ヱルサレムは聖きよき所ところとなり他國よそぐにの人ひとは重かさねてその中なかをかよふまじ

3:18 その日ひ山やまにあたらしき酒さけ滴したたり岡をかに乳ちち流ながれユダのもろもろの河かはに水みづ流ながれヱホバの家いへより泉水いづみ流ながれいでてシッテムの谷たにに灌そそがん

3:19 エジプトは荒あれすたれエドムは荒野あれのとならん 是こはかれらユダの子孫しそんを虐しへたげ辜つみなき者ものの血ちをその國くにに流ながしたればなり

3:20 されどユダは永久とこしへにすまひヱルサレムは世々よよに保たもたん

3:21 我われさきにはかれらが流ながしし血ちの罪つみを報むくいざりしが今いまはこれをむくいん ヱホバ、シオンに住すみたまはん